日本リヒテンシュタイン協会
Japanisch-Liechtensteinische Gesellschaft

 

世界の切手収集家を魅了するミニ国家の切手(3)

魅力的な切手へと変貌

 リヒテンシュタインの切手が魅力溢れるものへ変貌して行くのは、1930年代に入ってからの事であるが、それ迄の間にも名品の評価を受け、後年の収集家達を魅了する切手が発行されている。
 その一つが1925年5月1日に発行された切手で1.1/2フランの高額面の普通切手である。ファドゥーツにある政府庁舎を図案にしたもので、手の込んだ凹版印刷の名品である。楕円を枠にした額縁デザインも上品で、落ち着いた群青ぐんじょうの刷色にも高額面らしい風格がある。

 もう一つ、1928年10月6日に発行された寄付金付切手をご覧に入れる。「流される鉄橋」と収集家の間で呼称が付けられているものだ。ライン川はスイスとの国境をドイツへ向かって流れる大河だが、欧州中部では重要な川で、豊かな恵みを与える一方で洪水と言う災厄ももたらせてきた。中でも1928年の洪水は甚大な被害を各地に与え、リヒテンシュタインもその例外ではなかった。切手の図案にあるような鉄橋が水の力で破壊され流されたのである。この災害に対して、リヒテンシュタイン政府はこの国としては珍しい寄付金付の切手を発行する事により、災害からの復旧の一助に充てたのである。力強い凹版の筆触は鉄橋をも押し流す洪水の力をまざまざと見せ付けてくれる。

 1930年になると、非常に優れたスイスの印刷技術がリヒテンシュタイン侯国が発行する切手を大きく変貌させる。特に、この年の7月1日に発行された普通切手は、同国の山岳風景やロマンチックな中世の教会堂や古城などを中心に図案が構成され、そこへかつて無い程美しいグラビアによる印刷技術が施された為、この国を代表するシリーズとなる。紙面の関係で14種類からなる全ての図案は紹介出来ないが、筆者の勝手な好みから、その中の幾つかを採り上げて見る。

 先ず、券面額3Rpの切手だが、アルプスの山々を背景に葡萄畑で働く民族衣装姿の若い娘を描いたものだ。単色刷りではあるが、はるか背景に名物のファドゥーツ城を配した構図が申し分ない。
 中央は名所の一つ、ドライ・シュベスターン(三姉妹)岩と狩人を描いたものだ。独特の形状の岩山の迫力を伝えている。
 その右はアルペンホテルである。これも刷色の澄んだ青色が山麓の光景の美しさを表現している。

 20Rpはファドゥーツ城の中庭の光景を描いたものだ。この城は現在、侯爵家の居城である為、一般には非公開だが、この中庭の眺めは絵葉書などでも取り上げられ、お馴染みである。左端には鎧を着けた騎士像がデザインとして配されているのも気が利いている。

 券面額25Rpは同国が誇る名山、ナアフコップ山を描いたものだ。この山は標高2,570メートルあって、リヒテンシュタインの最南端に位置し、オーストリア及びスイスと国境を接している。東から見ると平らなピラミッド状のどうと言う事のない山に見えるのだが、他方角からは大変険しい山容を持っている。黒味が強い紫色と白味がかった部分の対照が自然の持つ厳しさを的確に表現していると言える。

 40Rpは聖マメタス教会を描いている。中世の面影を色濃く残すトリーセンにあって、9世紀に建てられた中世のロマンが漂う教会堂だ。切手の上辺部を覆う葡萄や蔦の装飾が古い教会の持つ雰囲気を引き立てている。

 60Rpはグーテンベルク城を描いたものだ。スイスのザルガンスからバスでこの国に入ると、首都のファドゥーツに向かう途中にあるバルザースと言う町の丘の上に佇む古城だ。現在無人の城だが、その独特の偉容が印象的だ。

 90Rpの高額切手の図案になったのはシュレンベルク修道院である。シュレンベルクはリヒテンシュタインの国土の北端にあって、この国の発祥の土地である。この修道院は1834年にスイス人の修道女・アンナ・マリア・ブルンナーによって設立されたもので、‘貴重な血の修道女会’と言う呼称を持っている。

 1.20Frの高額切手の図案になったのは国のシンボル、ファドゥーツ城だ。どの角度から見ても絵になる城である。落ち着いた茶色の刷色が城の持つ品格を尚一層高めている。

 1.50Frはアルプスのヒュッテを図案にしたものだ。具体的に何処なのかはハッキリしないものの、オーストリアとの国境地帯に連なるアルプス連峰群の何れかであるのだろう。濃紺と白の対比が高山の厳しさを表現している。

 

第四回(2019年1月掲載予定)