日本リヒテンシュタイン協会
Japanisch-Liechtensteinische Gesellschaft

 

世界の切手収集家を魅了するミニ国家の切手(4)

多用される公用切手

 リヒテンシュタインの人口は精々3万人程度である。この数値は昔も今もそう変らない。こうしたミニ国家の人々が日常遣り取りする手紙の量などは多寡たかが知れている。手紙の数量が少なければ、自ずと切手の消費量も大した事はない訳だ。こうしたお国事情から、使用済み切手の入手が難しい事は賢明な読者なら容易にお判りになろう。まして切手が貼られ消印が押された封書(カバー)を外国人である我々が入手する事はより困難なのである。ところが、少ない人口の住民達同士はそう矢鱈やたらと手紙を出さない替わりに、住民達に充てて盛んに通信を出す所があるのである。それが公官庁である。日本では官庁や役場から発信される通信封書は切手が貼られる事は滅多になく、大概が料金後納扱いのスタンプが印字されているから、これ程味気ないものはないが、リヒテンシュタインの場合は、官庁専用の公務切手が利用されており、これが頗るセンスの良いものだけに非常に魅力的なものになっている。

 公用切手は、公務員達による切手の私的流用な着服行為を防ぐ目的で、外の諸外国でも発行している例がみられるが、リヒテンシュタインのそれは独特の魅力を持っている。その幾つかの例示をして見よう。

 先ずこれらは先に触れた1930年に発行された普通切手のシリーズを台にして政府公用と言うドイツ語加刷が施された切手がある。公務加刷はシリーズ中の全ての券面に施されているのではなく、5, 10, 20, 30, 35, 50, 60 Rpと 1.20 Frの8種類だけである。

 加刷のスタイルはご覧のように印面の上部に王冠マークが入り、中下段にかけて、REGIERUNGS DIENSTMARKEN(政府公用)と言う意味のドイツ語表記である。諸外国ではOfficielと言うフランス語表記の切手を良く見掛けるが、これも公用切手を表わしている表記である。

 次の4種類は1933年~36年シリーズと題された普通切手を台切手として公用加刷が施されたものだ。このシリーズには、5, 10, 15, 20, 25, 30, 50, 90 Rp, 1.50 Fr の9券面額に公用切手が存在する。実は、専門的には用紙違いと加刷色の違いがあって、公用切手としての種類は12種類に及んでいる。

 此処で紹介した台切手(英語ではベーシック・スタンプ)の図案を説明しておこう。1933年~36年シリーズもリヒテンシュタイン国内を代表する構造物や風景や風物をモチーフにしているが、特徴の一つは、低額面(3Rp~25Rp)までの切手のサイズが小型となり、中額面から高額面(30Rp~1.50Fr)が低額面のサイズを横に並べた横型切手になった事が挙げられる。印刷の色も単色ながら非常に冴えている。勿論全てグラビア印刷が採用されている。30Rp以上の横型の風景切手のグラビア印刷は名高いスイスのクールボアジェ社が請け負った。左端から、ドライ・シュベスターン(三姉妹岩)、シャーンの教会堂、ファドゥーツ市庁舎、冬のサミナ渓谷の風景である。公用加刷のスタイルは王冠を取り囲んでRegierungs Dienstmarken(政府公用)の文字が入っている。
 プリキャンセル切手(大量に差し出される郵便物の切手を消印する手間を省く為、予め消印を印刷してある切手で、日本には無いが諸外国によく見受けられる)のようなスタイルが面白い。

 1933年~34年シリーズの高額面の公用切手である。90Rpはグーテンベルク城が図案となった。前述したようにスイスが世界に誇るグラビア印刷の名門クールボアジェ社が印刷を担当した。流石に見事な出来映えである。1.50Frは名山のナアフコップ山を望むヴァルナ地方の風景を図案にしたものだ。これも同様にクールボアジェ社による作品である。
 普通切手をベーシックにして加刷する形態は、その後も継承され、1944年~47年シリーズにも存在して盛んに使用された。このシリーズは従来のものよりサイズが小さくなったが、図案は同国各地の特色ある風景を題材に選んでいる14種類の券種の内7種が公用切手となった。紹介するのは5Rpと30Rpである。

 加刷方式が廃止され、正規の公用切手が1950年になると発行された。下の王冠図案がそれである。王冠シリーズはその後第2次が1968年に発行された。

1976年になると政府公舎を図案にした新しいシリーズに替わる。但し、公用切手制度はこれを最後に廃止となった。